飯田 敦夫(京都大学大学院医学研究科 グローバルCOE特定研究員)

2012年10月15日月曜日

サイエンスカフェ【魚夜】

いつも通りでケツカッチンでバイヤー(〆切ぎりぎりでヤバい)です。飯田です。

今日は、自分のイベントのアピールです。
10月24日に東京で、比較的少人数でのサイエンスカフェを開催させてもらいます。
イベント詳細は以下の通りです。


WEcafe vol.29「魚夜~サカナイト~」























日時:2012年10月27日(土)18:00-19:30(17:30開場)
司会:蓑田裕美さん (国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ)
会場:cafe&bar さんさき坂(東京・谷中)
対象:学生・社会人
費用:300円 + 別途ワンドリンク以上のオーダーをお願い致します。
定員:13名(メールフォームによる事前申込制・先着順)
主催:ウィークエンド・カフェ・デ・サイエンス(WEcafe)
   一般財団法人 武田計測先端知財団


内容的には先月の京都大学アカデミックデイ(9月2日の研究ブログ)の内容をフリートーク向けに改変しつつ、新アイテムのミニ顕微鏡のお披露目をと画策しています。
カフェで気軽に魚の卵(2日胚)を観察してもらおうと考えています。























一番の課題は、日々忍び寄る秋の涼しさの中、魚の卵がいつも通りの成長具合を見せてくれれるか、です。
その辺に加えて、今後の営業活動の色々な試金石を含ませつつも、楽しいイベントにしたいと思います。

別の出張も兼ねて上京するので、財団にお邪魔させていただく時間はありませんが(財団の方々への牽制)、久々の東京で楽しい週末を送っていきたいと思います。

今回は会場の都合で先着13名が定員ですが、お呼びがかかれば全国どこでも出張しますので、何かいい話があれば連絡ください!(自己PR)
飯田でした。はい。

2012年10月9日火曜日

となりのノーベル賞

ごきげんよう。飯田です。

2012年のノーベル医学・生理学賞の受賞者が山中・ガードン両博士に決定しました。
とにかくめでたいですね。










今年の財団の「ストックホルム国際青年科学セミナー」も例年以上にテンションが上がることでしょう。

山中先生が所長を務める京都大学iPS細胞研究所は、飯田の所属する再生医科学研究所とほとんどお隣と言って差し支えない位置関係にあるので、ミーハー心丸出しでちょっと見に行ってみました。


















が、今日がノーベル賞の発表日だということをすっかり失念して、名古屋まで金魚の水草を買いに行っていた(実話)のため、一番盛り上がったであろう時間帯を逃してしまうという残念な結果になりました。
写真は、かろうじてたどり着いた21時頃のiPS細胞研究所です。
報道陣らしき人達が4〜5人チラホラいた程度でした。無念。

しかしながら日本人25年ぶりの医学・生理学賞は嬉しいことなので、少し受賞内容についてのおさらいをしておきましょう。

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最初にゴードン博士の研究についてです。

今回の医学・生理学賞の受賞のキーワードは「初期化」です。
ここでは簡単に、初期化とは『細胞が生殖細胞と同じ状態に戻ること』と取り決めましょう。
生殖細胞は、体を作る様々な細胞(筋肉、神経、血液など)に変化することが出来ます。
この変化を「分化」と呼びます。

通常、分化した細胞(例えば”皮フ”の細胞)は、自分以外の細胞に分化する能力を失ってしまっています。
このことについて、以下の2つの仮説を考えることができます。
A. 分化に伴って細胞の遺伝情報は壊されたりして失われてしまい、遺伝子の有無で細胞の性質が決まる
B. 分化しても細胞の遺伝情報は全てが保存されていて、遺伝子の活性化のオンオフで細胞の性質が決まる
この2つの仮説のうち、どちらが正しいかをカエル(オタマジャクシ)を使って検証したのが1962年のガードン博士の実験になります。



























まず最初に紫外線照射などにより、カエルの卵の核(遺伝情報)を壊してしまいます。→
すると、遺伝情報をもたない卵は体作りができなくなって、死んでしまいます。→①'
そこで博士達は、オタマジャクシの分化した細胞(皮フなど)から核を取り出して、核を失った卵に移植しました。→
ここで、もし仮説Aが正しいとしたら、分化した細胞はその細胞になるのに必要な遺伝子以外を失ってしまっていることになります。だとすると、卵は成長することができずに死んでしまいます。→③'
ところが、仮説Bが正しいとしたら、卵に移植された核は初期化を起こし、もう一度オタマジャクシの体作りを行なえるかも知れません。→
結果は、仮説Bを支持するように細胞核の初期化が起こり、オタマジャクシに成長しました。→

この実験によりガードン博士達は「分化した細胞の核であっても、生き物の体作りに必要な遺伝情報を全て保持している。細胞種ごとの遺伝子の活性化は、遺伝子そのものを壊したりはせずに、働くためのスイッチのオンオフで制御している。」ということを示し、「分化した細胞でも初期化により未分化な状態(卵みたいな)に戻すことができる。」ということを証明しました。

さて、ここまでで「細胞は初期化できる」ということが分かりました。
しかし、卵へ核を移植したときに「どのような条件が初期化に効いているのか」は長いあいだ謎のままでした。
それを解明し、培養条件下で哺乳類の細胞を初期化させる方法を2006年に見いだしたのが山中博士の研究になります。

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山中博士達は、ヒトから採取した皮フの細胞に、たった4つの遺伝子を人工的に導入することで、動物の初期胚から採取できる未分化細胞(ES細胞:embryonic stem cells)に似ている細胞を誘導できることを発見しました。→
この誘導は分化→未分化への”初期化”であり、誘導した細胞にiPS細胞(induced pluripotent stem cellsという名前を付けました。→
ヒトやマウスにはおよそ2万個の遺伝子があるのですが、そこから4つまで絞り込んだというところからこの研究の凄まじさが窺い知れると思います。

さらに、iPS細胞はES細胞と同様に様々な細胞に分化する能力を持っており、筋肉や血球、生殖細胞などに分化させるための実験手法が次々に明らかになっています。→
動物の胚(受精卵)から細胞を採取するES細胞に比べ、iPS細胞は大人の皮フ細胞から作ることができるため、倫理的な問題が軽減されるというメリットがあります。
これら特性を生かして、病気の原因の解明や治療、細胞分化の研究に大きな進展を与えることができると期待されています。

また、最近の研究成果では、マウスのiPS細胞から機能的な生殖細胞を作ることに成功しています。
これはクローン作成の技術に繋がるため、ヒトへの応用に関しては慎重になる必要がありますが、どのように生殖細胞ができるのかという仕組みの理解に大きく貢献する成果です。
つまり、iPS細胞は難病の治療に貢献できる技術であると同時に、生き物の体作りを理解する上でとても重要な研究材料であると考えることができます。

このように、ガードン博士達が1962年にその存在を示した”初期化”という現象について、50年の時を経てその仕組みに迫ろうとしているのが山中博士達のiPS細胞というわけです。

以上の成果によって、今回めでたくノーベル賞を受賞したわけですが、これらの研究はまだまだ発展途上です。
病気の治療への応用はもとより、初期化の仕組みの全容の解明もこれから。
山中博士が日本での研究により開発に成功したiPS細胞研究に対して、今後も皆さんの理解とご支援が得られればと思います。

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ちょっとテンション上がって書きはじめましたが、意外に疲れました。
いや、ホントに(-_-;)

最後に、ここを見つけてしまった専門家の皆様にお願いです。
このサイトは研究の面白さを幅広くお楽しみ頂くため邪魔にならない程度の差し障りのない与太話をお楽しみいただくブログです。
(間違いがあってもお許しください(>_<))

次はお魚のとりとめのない話にします。したいです。
飯田でした。

2012年10月2日火曜日

【アルビノ】学生時代の研究【復帰突然変異】

ご無沙汰しています。飯田です。
今日は魚を使った小話として、学生時代の研究内容を紹介します。

これまで、このブログでもしつこいくらいにアルビノへの愛を説いてきました。
そのルーツは学生時代の研究テーマに起因します。
その頃、飯田は名古屋大学理学部の堀寛研究室で「メダカのアルビノ変異体」と「トランスポゾン」をキーワードとした研究に従事していました。

アルビノは、このブログではもうおなじみですね。
黒い色素を欠いた「白化」と呼ばれる突然変異です。


















では、トランスポゾンとは何でしょう?

生き物の遺伝子は、染色体と呼ばれるとても長いDNAの鎖の中に、それぞれの遺伝情報を含んだ塩基配列(A, T, G, Cの4種類の組み合わせ)の形で保存されています。
塩基配列はとても丈夫で、ちょっとやそっとのことでは壊れたり変化したりはしません。

ところが、染色体の中には自ら進んで自分の場所を変化させるトランスポゾン【動く遺伝子】と呼ばれる塩基配列が存在します。
トランスポゾンは染色体のある場所から、別の場所へと自分自身の配列をカット&ペースト(ときにはコピー&ペースト)で移動します。






















トランスポゾンが動いた場合、抜けたところは両端が繋がり、入った部分の配列は分断されます。
そこで、ごくごく稀に、トランスポゾンが移動する際に遺伝子の途中に割り込んでしまう場合があります。

事実、メダカにおいて、ある種のアルビノ突然変異はトランスポゾンの移動による遺伝子の分断が原因になっています。
チロシナーゼという黒い色素(メラニン)を作るために必要な遺伝子が分断されて働かなくなっているのです。文末 参考文献1




















一般的にトランスポゾンは、脊椎動物ではもうほとんど壊れてしまっていて、移動したり遺伝子を分断したりする能力は失ってしまっていると考えられていました。
しかし、メダカではごく最近、そのような移動&分断が起こりアルビノ変異を引き起こしました。
つまり、脊椎動物の中でもメダカのトランスポゾンはまだ生きていて、動けるものがあるという可能性が示唆されたのです。

そこで飯田は「最近移動して分断されたなら、もう一回動けばチロシナーゼが元に戻る(体の色が黒くなる)のではないか?」と考えました。
そんな折、研究室で飼っている別のアルビノ系統(弱いアルビノで黒い色素細胞が少なくなる文末 参考文献2)の子供の中に、野生型と同じ黒い体色の魚を見つけました。

























遺伝子というのは本来かなり安定で、親の遺伝的な形質はきちんと子供に受け継がれます。
つまりアルビノの両親から生まれる子供は全部アルビノのはずでした。
しかしここで、再びトランスポゾンが移動して子供に復帰突然変異(アルビノ→黒色)が起こった可能性が出てきました。

そこで飯田は、遺伝子の構造を調査しました。























その結果、チロシナーゼ遺伝子を分断して壊してしまっていたトランスポゾンが、きれいさっぱりどこかに移動していなくなってしまっていました。文末 参考文献3、4

つまり、アルビノ変異を起こした”遠くない過去”だけでなく、”現在”においてもメダカのトランスポゾンは染色体の中を動き回って、突然変異を引き起こす能力を持っていたのです。
このことから、哺乳類などの他の脊椎動物においても「もうトランスポゾンは動かない」のではなく「今でも動いているが見つかっていないだけ」という考え方を提唱&支持しています。

また他にも、脊椎動物の進化におけるトランスポゾンの貢献の度合いが、従来考えられていたよりも大きいのではないかという疑問を投げかけました。
















「トランスポゾンにより突然変異が起こる」ということは、生き物が『昔のすがた』から『現在のすがた』に変化する途中で、トランスポゾンにより多くの『中間体』が生み出されていた可能性を考えることができます。
しかも「トランスポゾンによる突然変異は同じくらいの頻度で元に戻ってしまう」と考えると、この「中間体」達はすぐにその姿を消してしまい、遺伝子の塩基配列にもトランスポゾンの痕跡を残すことができなかったと推測されます。

つまり、現在でも検出可能な遺伝情報内の痕跡から推定されている以上に、トランスポゾンは生物の進化における多様化の試行錯誤に貢献しているのではないかと、このメダカのアルビノを使った研究から考察することが可能となったわけです。

-おしまい-

参考文献
1. Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H.
Insertion of a novel transposable element in the tyrosinase gene is responsible for an albino mutation in the medaka fish, Oryzias latipes.
Molecular Genetics and Genomics (1995)

2. Iida A, Inagaki H, Suzuki M, Wakamatsu Y, Hori H, Koga A.
The tyrosinase gene of the i(b) albino mutant of the medaka fish carries a transposable element insertion in the promoter region.
Pigment Cell Research (2004)

3. Iida A, Takamatsu N, Hori H, Wakamatsu Y, Shimada A, Shima A, Koga A.
Reversion mutation of ib oculocutaneous albinism to wild-type pigmentation in medaka fish.
Pigment Cell Research (2005)

4. Koga A, Iida A, Hori H, Shimada A, Shima A.
Vertebrate DNA transposon as a natural mutator: the medaka fish Tol2 element contributes to genetic variation without recognizable traces.
Molecular Biology and Evolution (2006)


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と、かつてない長文をここまで最後まで読んでくださりありがとうございました。
次はいつも通りお気楽な記事にします。
書いてる方も疲れました。

飯田でした。

2012年10月1日月曜日

【業界人向け】イベント紹介

小型魚類研究会で「ブログ見てます」と複数人から言われました。
ありがとうございます。でもネットと現実は違いますから。飯田です。

「おいおいこのブログって業界人にも見られてるんじゃねえか・・・」というわけで、今日はちょっと主旨を変えて、その筋のヒト向けの宣伝です。

最初は、新学術領域研究「細胞機能と分子活性の多次元蛍光生体イメージング」の主催する第3回Vivid Workshop(若手合宿)です。
去年の合宿に参加させてもらった縁でポスターを送ってもらったので、宣伝します。

























アピールポイントとしては『加賀温泉』『費用向こう持ち』です。
一応35歳以下という年齢制限の目安はありますが、あくまで目安です。
飯田のように生き物を光らせて観察する系の人から、化学的に新しい蛍光物質を合成している材料系の人まで幅広い若手が集まるので、とても勉強になると思います。

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次は飯田の所属する、新学術領域研究「動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成」の関連するイベントです。
神戸の理化学研究所CDBで行なわれる国際シンポジウムです。

























新学術領域研究「ミクロからマクロへ階層を超える秩序形成のロジック」との共催です。
ぜひぜひ参加を検討してください。

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最後は、上記の新学術「動く細胞と場」の代表者の先生が主催される「Educational Workshop for Biomedical Research and Publication」です。
名古屋大学での開催です。

























一流のジャーナルに研究論文に載せるコツなどのレクチャーとのことです。
発表を控えているネタがある人も、これからビッグな仕事をしてやろうと意気込んでいる人も、聞いておけば参考になるのではないでしょうか。

そんな感じで、今回は主旨を変えて業界人向けの内容でした。
次からはまた牧歌的に『魚のかわいさをお楽しみ頂くための邪魔にならない程度の差し障りのない内容』でお届けしたいと思っています。
飯田でした。