飯田 敦夫(京都大学大学院医学研究科 グローバルCOE特定研究員)

2012年10月2日火曜日

【アルビノ】学生時代の研究【復帰突然変異】

ご無沙汰しています。飯田です。
今日は魚を使った小話として、学生時代の研究内容を紹介します。

これまで、このブログでもしつこいくらいにアルビノへの愛を説いてきました。
そのルーツは学生時代の研究テーマに起因します。
その頃、飯田は名古屋大学理学部の堀寛研究室で「メダカのアルビノ変異体」と「トランスポゾン」をキーワードとした研究に従事していました。

アルビノは、このブログではもうおなじみですね。
黒い色素を欠いた「白化」と呼ばれる突然変異です。


















では、トランスポゾンとは何でしょう?

生き物の遺伝子は、染色体と呼ばれるとても長いDNAの鎖の中に、それぞれの遺伝情報を含んだ塩基配列(A, T, G, Cの4種類の組み合わせ)の形で保存されています。
塩基配列はとても丈夫で、ちょっとやそっとのことでは壊れたり変化したりはしません。

ところが、染色体の中には自ら進んで自分の場所を変化させるトランスポゾン【動く遺伝子】と呼ばれる塩基配列が存在します。
トランスポゾンは染色体のある場所から、別の場所へと自分自身の配列をカット&ペースト(ときにはコピー&ペースト)で移動します。






















トランスポゾンが動いた場合、抜けたところは両端が繋がり、入った部分の配列は分断されます。
そこで、ごくごく稀に、トランスポゾンが移動する際に遺伝子の途中に割り込んでしまう場合があります。

事実、メダカにおいて、ある種のアルビノ突然変異はトランスポゾンの移動による遺伝子の分断が原因になっています。
チロシナーゼという黒い色素(メラニン)を作るために必要な遺伝子が分断されて働かなくなっているのです。文末 参考文献1




















一般的にトランスポゾンは、脊椎動物ではもうほとんど壊れてしまっていて、移動したり遺伝子を分断したりする能力は失ってしまっていると考えられていました。
しかし、メダカではごく最近、そのような移動&分断が起こりアルビノ変異を引き起こしました。
つまり、脊椎動物の中でもメダカのトランスポゾンはまだ生きていて、動けるものがあるという可能性が示唆されたのです。

そこで飯田は「最近移動して分断されたなら、もう一回動けばチロシナーゼが元に戻る(体の色が黒くなる)のではないか?」と考えました。
そんな折、研究室で飼っている別のアルビノ系統(弱いアルビノで黒い色素細胞が少なくなる文末 参考文献2)の子供の中に、野生型と同じ黒い体色の魚を見つけました。

























遺伝子というのは本来かなり安定で、親の遺伝的な形質はきちんと子供に受け継がれます。
つまりアルビノの両親から生まれる子供は全部アルビノのはずでした。
しかしここで、再びトランスポゾンが移動して子供に復帰突然変異(アルビノ→黒色)が起こった可能性が出てきました。

そこで飯田は、遺伝子の構造を調査しました。























その結果、チロシナーゼ遺伝子を分断して壊してしまっていたトランスポゾンが、きれいさっぱりどこかに移動していなくなってしまっていました。文末 参考文献3、4

つまり、アルビノ変異を起こした”遠くない過去”だけでなく、”現在”においてもメダカのトランスポゾンは染色体の中を動き回って、突然変異を引き起こす能力を持っていたのです。
このことから、哺乳類などの他の脊椎動物においても「もうトランスポゾンは動かない」のではなく「今でも動いているが見つかっていないだけ」という考え方を提唱&支持しています。

また他にも、脊椎動物の進化におけるトランスポゾンの貢献の度合いが、従来考えられていたよりも大きいのではないかという疑問を投げかけました。
















「トランスポゾンにより突然変異が起こる」ということは、生き物が『昔のすがた』から『現在のすがた』に変化する途中で、トランスポゾンにより多くの『中間体』が生み出されていた可能性を考えることができます。
しかも「トランスポゾンによる突然変異は同じくらいの頻度で元に戻ってしまう」と考えると、この「中間体」達はすぐにその姿を消してしまい、遺伝子の塩基配列にもトランスポゾンの痕跡を残すことができなかったと推測されます。

つまり、現在でも検出可能な遺伝情報内の痕跡から推定されている以上に、トランスポゾンは生物の進化における多様化の試行錯誤に貢献しているのではないかと、このメダカのアルビノを使った研究から考察することが可能となったわけです。

-おしまい-

参考文献
1. Koga A, Inagaki H, Bessho Y, Hori H.
Insertion of a novel transposable element in the tyrosinase gene is responsible for an albino mutation in the medaka fish, Oryzias latipes.
Molecular Genetics and Genomics (1995)

2. Iida A, Inagaki H, Suzuki M, Wakamatsu Y, Hori H, Koga A.
The tyrosinase gene of the i(b) albino mutant of the medaka fish carries a transposable element insertion in the promoter region.
Pigment Cell Research (2004)

3. Iida A, Takamatsu N, Hori H, Wakamatsu Y, Shimada A, Shima A, Koga A.
Reversion mutation of ib oculocutaneous albinism to wild-type pigmentation in medaka fish.
Pigment Cell Research (2005)

4. Koga A, Iida A, Hori H, Shimada A, Shima A.
Vertebrate DNA transposon as a natural mutator: the medaka fish Tol2 element contributes to genetic variation without recognizable traces.
Molecular Biology and Evolution (2006)


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と、かつてない長文をここまで最後まで読んでくださりありがとうございました。
次はいつも通りお気楽な記事にします。
書いてる方も疲れました。

飯田でした。

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