飯田 敦夫(京都大学大学院医学研究科 グローバルCOE特定研究員)

2012年10月9日火曜日

となりのノーベル賞

ごきげんよう。飯田です。

2012年のノーベル医学・生理学賞の受賞者が山中・ガードン両博士に決定しました。
とにかくめでたいですね。










今年の財団の「ストックホルム国際青年科学セミナー」も例年以上にテンションが上がることでしょう。

山中先生が所長を務める京都大学iPS細胞研究所は、飯田の所属する再生医科学研究所とほとんどお隣と言って差し支えない位置関係にあるので、ミーハー心丸出しでちょっと見に行ってみました。


















が、今日がノーベル賞の発表日だということをすっかり失念して、名古屋まで金魚の水草を買いに行っていた(実話)のため、一番盛り上がったであろう時間帯を逃してしまうという残念な結果になりました。
写真は、かろうじてたどり着いた21時頃のiPS細胞研究所です。
報道陣らしき人達が4〜5人チラホラいた程度でした。無念。

しかしながら日本人25年ぶりの医学・生理学賞は嬉しいことなので、少し受賞内容についてのおさらいをしておきましょう。

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最初にゴードン博士の研究についてです。

今回の医学・生理学賞の受賞のキーワードは「初期化」です。
ここでは簡単に、初期化とは『細胞が生殖細胞と同じ状態に戻ること』と取り決めましょう。
生殖細胞は、体を作る様々な細胞(筋肉、神経、血液など)に変化することが出来ます。
この変化を「分化」と呼びます。

通常、分化した細胞(例えば”皮フ”の細胞)は、自分以外の細胞に分化する能力を失ってしまっています。
このことについて、以下の2つの仮説を考えることができます。
A. 分化に伴って細胞の遺伝情報は壊されたりして失われてしまい、遺伝子の有無で細胞の性質が決まる
B. 分化しても細胞の遺伝情報は全てが保存されていて、遺伝子の活性化のオンオフで細胞の性質が決まる
この2つの仮説のうち、どちらが正しいかをカエル(オタマジャクシ)を使って検証したのが1962年のガードン博士の実験になります。



























まず最初に紫外線照射などにより、カエルの卵の核(遺伝情報)を壊してしまいます。→
すると、遺伝情報をもたない卵は体作りができなくなって、死んでしまいます。→①'
そこで博士達は、オタマジャクシの分化した細胞(皮フなど)から核を取り出して、核を失った卵に移植しました。→
ここで、もし仮説Aが正しいとしたら、分化した細胞はその細胞になるのに必要な遺伝子以外を失ってしまっていることになります。だとすると、卵は成長することができずに死んでしまいます。→③'
ところが、仮説Bが正しいとしたら、卵に移植された核は初期化を起こし、もう一度オタマジャクシの体作りを行なえるかも知れません。→
結果は、仮説Bを支持するように細胞核の初期化が起こり、オタマジャクシに成長しました。→

この実験によりガードン博士達は「分化した細胞の核であっても、生き物の体作りに必要な遺伝情報を全て保持している。細胞種ごとの遺伝子の活性化は、遺伝子そのものを壊したりはせずに、働くためのスイッチのオンオフで制御している。」ということを示し、「分化した細胞でも初期化により未分化な状態(卵みたいな)に戻すことができる。」ということを証明しました。

さて、ここまでで「細胞は初期化できる」ということが分かりました。
しかし、卵へ核を移植したときに「どのような条件が初期化に効いているのか」は長いあいだ謎のままでした。
それを解明し、培養条件下で哺乳類の細胞を初期化させる方法を2006年に見いだしたのが山中博士の研究になります。

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山中博士達は、ヒトから採取した皮フの細胞に、たった4つの遺伝子を人工的に導入することで、動物の初期胚から採取できる未分化細胞(ES細胞:embryonic stem cells)に似ている細胞を誘導できることを発見しました。→
この誘導は分化→未分化への”初期化”であり、誘導した細胞にiPS細胞(induced pluripotent stem cellsという名前を付けました。→
ヒトやマウスにはおよそ2万個の遺伝子があるのですが、そこから4つまで絞り込んだというところからこの研究の凄まじさが窺い知れると思います。

さらに、iPS細胞はES細胞と同様に様々な細胞に分化する能力を持っており、筋肉や血球、生殖細胞などに分化させるための実験手法が次々に明らかになっています。→
動物の胚(受精卵)から細胞を採取するES細胞に比べ、iPS細胞は大人の皮フ細胞から作ることができるため、倫理的な問題が軽減されるというメリットがあります。
これら特性を生かして、病気の原因の解明や治療、細胞分化の研究に大きな進展を与えることができると期待されています。

また、最近の研究成果では、マウスのiPS細胞から機能的な生殖細胞を作ることに成功しています。
これはクローン作成の技術に繋がるため、ヒトへの応用に関しては慎重になる必要がありますが、どのように生殖細胞ができるのかという仕組みの理解に大きく貢献する成果です。
つまり、iPS細胞は難病の治療に貢献できる技術であると同時に、生き物の体作りを理解する上でとても重要な研究材料であると考えることができます。

このように、ガードン博士達が1962年にその存在を示した”初期化”という現象について、50年の時を経てその仕組みに迫ろうとしているのが山中博士達のiPS細胞というわけです。

以上の成果によって、今回めでたくノーベル賞を受賞したわけですが、これらの研究はまだまだ発展途上です。
病気の治療への応用はもとより、初期化の仕組みの全容の解明もこれから。
山中博士が日本での研究により開発に成功したiPS細胞研究に対して、今後も皆さんの理解とご支援が得られればと思います。

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ちょっとテンション上がって書きはじめましたが、意外に疲れました。
いや、ホントに(-_-;)

最後に、ここを見つけてしまった専門家の皆様にお願いです。
このサイトは研究の面白さを幅広くお楽しみ頂くため邪魔にならない程度の差し障りのない与太話をお楽しみいただくブログです。
(間違いがあってもお許しください(>_<))

次はお魚のとりとめのない話にします。したいです。
飯田でした。

3 件のコメント:

  1. 榛葉健一(国際科学技術財団)2012年10月11日 10:24

    飯田先生・・・本当によく理解できました。改めて新聞を熟読しながらも漠として理解していたものが、このやさしい解説で文系の私でもよ~く理解できました。 このまま、新聞のやさしい科学技術解説欄に転載できそうですね。 科学技術の発展は多くの人々の理解と支援があってのものです。その意味で科学技術の素晴らしさを一人でも多くの方に知っていただくことが大切ですね。有難うございました。 国際科学技術財団 榛葉健一

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  2. 小倉(ジャパンプライズ)2012年10月11日 15:39

    さすが先生。まさに研究助成ブログにぴったりです。やさしく纏めてくださってありがとうございます。
    ちょうど、先ほどストックホルム国際青年科学セミナーへの派遣学生との打ち合わせが終わりました。現地ではマスコミさんもかなり盛り上がると思うので、「どこから派遣された?」と聞かれたら「ジャパンプライズを出している国際科学技術財団」と言うようにと言っていたところです(笑)
    ちょっと明日、京都に行きます。今回はお邪魔できませんが、また近いうち会いましょうっ!

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  3. 飯田敦夫@京都大2012年10月11日 23:25

    >榛葉さん
    いやいや、ニュースで語られてる総説をそのまま書き下ろしたようなものですよ。
    でもガードン先生の業績について取り上げるニュースや記事が少ないので、ここに書く事で少しでも人目に触れればと思います。
    生物を学ぶものなら、誰もが教科書で出会う内容なので、少し懐かしい気分で受賞のニュースを見てました(笑)

    >小倉さん
    次からはまた研究ブログの主旨から斜め上に外れた記事を書くのでご心配なく(笑)
    青年科学セミナーの活躍も目を光らせてます。夜中にニュースJAP●N見るくらいですけど・・・。
    またお時間のあるときに研究室に遊びにきてください。
    メタボカレーはありませんけど、京都大学名物「総長カレー」がありますので。

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